かゆみは透析患者さんの約70%にみられる合併症です。そのうち、強いかゆみのある患者さんは30~40%と言われます1)。
痛みと違って、かゆみは「命に関わるものではない」と考え、我慢してしまう方もいますが、かゆみに悩む患者さんの多くに睡眠障害や日中の眠気、抑うつ感などがみられます。これらは「生活の質」を著しく低下させるため、かゆみはきちんと治療すべき合併症と言えます。
とはいえ、実は以前は、私たち医師の多くも透析のかゆみを重要な合併症と捉えていませんでした。抗ヒスタミン薬など決まった薬を処方する以外は、看護師やご家族にケアを任せ、かゆみ治療に正面から向き合っていなかったのです。
しかし近年、研究によって透析のかゆみの原因が徐々に明らかになってきました。治療の選択肢が増えるのに伴って医療従事者の意識も高まり、現在は「透析のかゆみはきちんと治療すべき」との認識が広がっています。
1) 大森 健太郎, 他:透析会誌. 34(12): 1469, 2001
透析のかゆみの原因としては、表のようなものがあげられます。多くの場合、複数の原因が関与しているため、考えられる治療を広く試していくことが大切です。
さまざまな治療の中でも、基本となるのは皮膚の保湿(スキンケア)です。皮膚の一番外側は通常、角質細胞が積み重なった「角層」によって守られています。しかし、皮膚が乾燥すると角層の水分が減り隙間ができます。また、かゆみを伝える神経(C線維)が皮膚の表面近くまで伸びることで、外界からの刺激に敏感に反応するようになってしまいます。透析患者さんの多くはこのような乾燥肌であり、かゆみの大きな原因となるため、スキンケアは継続的に行う必要があります。
このほか、透析膜の変更やリン、カルシウムの適切な管理など、透析療法の改善によってかゆみが軽減することもあります。さらに、中枢神経系に働きかけてかゆみをおさえる薬(カッパ受容体作動薬)も登場しています。医師と相談しながら、幅広い観点から治療を考えていきましょう。
何気ない生活習慣が原因でかゆみが悪化することがあります。例えば入浴時には、少しでもかゆみを軽減しようと熱い湯に長くつかったり、タオルで体をゴシゴシこすったりしがちです。しかし、熱い湯は必要な皮脂まで溶かし、強い摩擦は皮膚を傷つけて、皮膚のバリア機能を低下させてしまいます。お湯の温度はぬるめにし、体は手のひらなどでやさしく洗うよう心がけてほしいと思います。
このほか乾燥する季節は部屋を十分加湿するなど、少しの工夫でかゆみが改善することもあります(図)。看護師などに相談しながら生活習慣を見直してみてください。
お話してきたように、最近は透析のかゆみ治療の選択肢が広がっています。かゆみ治療は「かゆみを伝えること」から始まりますので、患者さんにはかゆみを我慢せず、積極的に医師や看護師に相談していただきたいですね。
またご家族には従来通り、スキンケアの補助や患部を冷やすなどのケアを続けてほしいと思います。こうしたケアには、他の治療と同様、確かな効果があるとわかっています。心のこもったケアでかゆみ治療をサポートしていってください。